俺様魔王の甘い口づけ
「煩いわね、今は私がどう呼ぶかじゃなくて、あんたが私の名前をちゃんと呼んでって話なんだから、話をすり替えないでよ」
「その話ならさっき結論が出ただろう」
「納得できるわけないでしょうが!」
バカなの、あんた。
いけない、ルイのペースに巻き込まれたらイライラするだけだ。
「じゃあ、私はともかく、ハンスとかリオンとかの事は名前で呼んであげなさいよ」
「なぜ」
なぜ、って。
ルイは名前をなんだと思ってるんだろう。
そりゃあ、もしかしたら名前なんて呼ばなくても通じるのかもしれない。
ここにいる家来はハンスとリオンの二人だけのようだし。
ハンスに対してあいつは、と聞けばそのあいつと指すのはリオンの事なのだろうし。
その逆も然り。
名前なんて呼ばなくても生きていける。
でも、そういうもんじゃないはず。
名前ってもっと大切で、尊いものだ。
親に一番に与えられる愛情のようなもの。
自分という存在を示すもの。
名前を聞けば、その人の姿や思い出が思い出され温かい気持ちにさせてもくれたりする。
好きな人に名前を呼ばれればドキドキするし、友だちに呼ばれれば嬉しくもなる。
お前だとか、貴様だとか、そんな風に呼ばれるよりずっといい。
「名前って、大切なものだよ。名前を呼んでもらうとさ、自分を認められた気がするの。ちゃんとその人に私という存在を認めてもらえた、そんな気になる」
「そんな、ものか」
「そうよ。ためしに、ハンスの名前を呼んでみたらいいわ。きっと、喜ぶと思うわよ」
私はそう言って笑った。