めぐりあい(仮)





「あー…んとね、」





そう言って、自分に驚いた。


悠太郎と出会って、


今まで会うことに


躊躇うことがなかった。


なのに、今。


あたしはどうしようか


迷った。


それが何でなのか、


今のあたしには分からないけど。





「行けよ」





前を歩いていた蓮哉が、


あたしを真っ直ぐ見て言った。


何かを見透かされているように、


迷いを導いてくれるように。






「うん、行けるよ」





『よかった。待ってる』






通話が切れた携帯から、


無機質な音が聞こえてくる。


その音が、今のあたしの心の音。






「木嶋さん?」





「うん」





少し早歩きで蓮哉に追いつくと、


唐突に聞いて来た。





「だと思った」





「…うん」





夏の夜風が体にまとわりついて。


何だか気持ちが悪くなった。


何だろう、この感情。


どう現したらいいんだろう。






「木嶋さん家?」





「うん」





「じゃあそこまで送る」





さっきからあたし、


心ここにあらずだ。


うん、しか言ってないや。







「妃名」





「ん?」





「何で木嶋さん?」





蓮哉にそう尋ねられ。


黙り込んでしまう。


あたしには悠太郎しかいない。


そう思って、ずっと生活してたから。


何で悠太郎か、なんて。


答えられるはずがない。






「分かんない」





あたしの答えを聞いた蓮哉は、


自分で聞いて来たにも関わらず、


興味なさそうにふーん、と言った。


あたしには悠太郎だけ。


その考えは、


蓮哉に会って変わった。


変わったんだよ。





「でも妃名」





悠太郎はすごく大事だよ。


だけど、蓮哉もすごく大事。


今は比べられないくらい、


2人とも離したくない。






「辛いんじゃねーの?」





蓮哉はいつも、


あたしに突っかかってくるくせに。


こんな時は、


人一倍優しいんだ。






「違う?」






ふいに振り向いて来るから、


あたしは必死に笑顔で首を振った。


だけどね、蓮哉。


あたし、結構辛かったりするよ。


悠太郎と一緒にいて。


このままずっと一緒にいられる、


っていう保障があるなら。


あたしだけの悠太郎になるなら。


もしかしたらあたしは、


頑張れるかもしれない。


だけどこんなに一緒にいても、


どこかいつも1人な気がするの。






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