めぐりあい(仮)
一緒にいるあの空間でさえも、
知らない誰かがいるのだとしたら。
そう考えるだけで、吐きそうになる。
でもそんなこと、
蓮哉に言えない。
これはあたしが選んでる道。
だから、あたし1人で、
どうにかするしかないんだ。
「ここだろ?」
「そうだね」
悠太郎の住むマンションの前に着き、
あたしたちは静かに佇んだ。
「蓮哉、今日はあり…」
「いつでも連絡しろ」
地面を見ていた視線を、
少しずつ上に向ける。
蓮哉のぶっきらぼうな優しい言葉が、
今のあたしにはすごく温かい。
「1人だと思うなよ」
蓮哉は携帯を取り出し、
これがあるだろ、と言った。
嬉しかった。
1人じゃないと言われているようで。
「分かった」
「じゃあな」
そう言って蓮哉は、
微笑んで去って行った。
出会って何日か、なんて
関係ないんだね。
蓮哉のおかげで、
さっきまでの苦しみが、
一気に飛んで行った。
蓮哉が見えなくなってから、
エントランスに入った。
悠太郎のいる18階まで
エレベーターに乗る。
さっき元気なさそうだったし、
心配だな。
早く着け。
早く着け。
着いた瞬間、エレベーターを降り、
悠太郎の家まで一心不乱で歩いた。
インターホンを鳴らすと、
数秒もかからずドアが開いた。
「悠太郎…」
悠太郎は疲れた顔をしていて、
元気なさそうに笑った。
そして中に入ると。
「わっ」
「ごめん、急に」
玄関で抱きしめられた。
力強い悠太郎に、
あたしも抱きしめ返す。
「どうしたの、悠太郎?」
いつもは落ち着いてるのに、
たまに弱々しい子どもになる。
本当に、ごく稀に。
だけど決して弱音は吐かない。
それがあたしにとっては、
すごく寂しいことで。
「中入ろ?」
「もう少し」
宙に浮くんじゃないかってくらい、
ぎゅーって抱きしめられて。
悠太郎の匂いだ、なんて思っていると。
「一緒にいて」
なんて、可愛らしいこと言って。
「ふっ…ん、」
あたしにキスをした。