恋のキッカケ
 あー、十一時だ。もう帰らないと、終電に間に合わない。今日はここで切り上げるか。明日早く来よう。もう気合いは使い果たしました。

 徹夜組、徒歩組、自転車組、車組の人たちは、まだ作業を続けていた。完成間近の広告を眺めてから、保存をしパソコンの電源を切った。残っている人たちに挨拶をし、エレベータへ向う。

 突然、コーヒーが飲みたくなり、休憩室に寄った。休憩室から人の声が聞こえてくる。男と女の声だ。様子を窺うように中を覗いた。

 壁に寄り掛かるような形で第二デザイン部の広瀬さん。そして彼女と向かい合うようにして片手を壁についている営業の秋山さん。リアル壁ドンだ、初めて見た。

 秋山さんって、女子に結構人気だよね。でもガードが堅くて、なかなか落ちないらしい。なんだ本命がいるんだ。へえ、ゆるふわ系女子が好みなんだ。はっとして、今の自分の姿を見た。休憩室の入口に身を隠すようにして張り付いている私。これは覗きだ。大人として駄目だ、帰ろう。
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