恋のキッカケ
「もう九時だよ。終電で帰るのは無理かな」

 この時間帯でも作業をしている人は多く、人に聞こえない程度でぶつぶつと言った。

「高木先輩、大丈夫ですか?」
「ああ、仲村ちゃん、帰るの?」
「はい。さっきコンビニに行ったときに買ったんです。よかったら、どうぞ」

 デスクの上に置かれたビニール袋には、中華まん、カレーまん、サラダ、スポーツドリンクが入っていた。

「ありがとう。夕飯食べ損ねてたんだ。あ、お金」
「いいですよ。高木先輩にはよく奢ってもらっていますから。そのお返しです」
「仲村ちゃん、天使だよ。本当にありがとう。仲村ちゃんなら、素敵な男性に壁ドンしてもらえるよ」

 少し笑いながら仲村ちゃんは「なんですか、それ。昼の話、まだ続いてるんですか。疲れておかしくなってますよ。少しは休憩もとってくださいね」と言って、出て行った。

 なんていい子なんだと言う思いを噛みしめながら、中華まんを頬張り、仕事を再開した。
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