あり得ないけど実際にあった話
壁ドンってときめくものなのかといささか疑問でした
僕はいまいち壁ドンというものの良さは分からないし、
傍から見れば脅迫にも見えるんじゃないかと思ってしまっている。
だからやりたいとも思わなかったんだけど、
ずっと気になっている彼女がこんな会話をしているのが聞こえてしまった。

「昨日のあのシーン良かったよね。不意に壁にどんってやられるの」
「あー、うん。分かる分かる!」

僕は見ていないけれど、きっとドラマの事だと思う。
でもあれはそう言うシチュエーションで、格好いい俳優が綺麗な女優にやってキュンと来るんじゃないだろうか。
だけどその後の一言で僕は一度で良いからやってみたいと思うようになった。

「私もやられてみたいなぁ」

格好いい俳優がやるからドキドキ感が増す壁ドンと言う物。
僕みたいなのがやっても“意味分かんない”で済まされてしまうのがオチだろう。
でももし誰がやっても“格好いい”とか“ときめいちゃう”のであれば。
僕はやってみたいなと思う。それで惚れてくれたら一番嬉しい事。まあ、世の中そんなに都合よくは行かないだろうけど。
やらないよりはやってみようか。なかなか告白出来ないでいるし、告白出来るきっかけにもなったら良いなと思う。

だから僕は実践してみようと決意した。だけどそんなに世の中上手くは行かない。
タイミングから何まで全てが揃わなければそれは成立しない訳で。
何となく壁ドンの話を読んでみたけれど、どれもこれも僕に実践しろと言われたら無理な話で。
諦めるしかないのだろうか。なんて事を考えつつ、時間だけが過ぎていく。

もう壁ドンをやろうとかという考えが薄れてきたある秋の日。
僕は思い切り体調を崩し、風邪をひいてしまう。だけどそれでも仕事に行かなければと、薬を飲んで出社する。
まあなんとか午前中はやり過ごせたけれど、午後はどうなるかが分からない。
とりあえず何か飲み物を飲もうとフラフラ歩いていると、

「市居(いちい)さん、具合悪そうだけど大丈夫ですか?」

彼女が声をかけて来た。僕にとってそれは嬉しい事だったけれど、
正直今はあまり話しかけないでほしいという気持ちが強かった。風邪をうつしてしまうからだ。

「大丈夫ですから」

そのまま押し切ろうとしたけれど、彼女はそれを許さない。

「私の方から課長には伝えますから、帰って寝た方が……」
「だから大丈夫だってば!」

僕が帰ってしまった事で仕事が大変になるのは避けたい。
ただでさえ人員不足が嘆かれているだけに、だ。すると彼女は……。
壁際にいた僕を囲むかのように、自分の右手を壁に叩きつけ、怒鳴った。いわゆる壁ドンと言う奴だろうか。

「つべこべ言ってねえでさっさと帰れ! そんな具合悪くされている方が迷惑だし、ただの邪魔なだけ!
人で不足は分かっているけど、そこまで無理されてもこっちが困るだけっての分からないの!?」

普段は明るくておしとやかなイメージのある彼女。
そこからは考えられないほど、眼光には威圧感があったし言葉遣いも何処かいつもと違う。
あまりにも強く睨まれるから、僕はもうこう言うしかない

「……分かりました」
「分かってくれるなら良いんです。お大事なさってくださいね。
風邪は暖かくして沢山寝るのが一番ですから……では、課長には伝えておきますね」

にこっと微笑んで、去っていく彼女。
その後ろ姿を見送りながら僕は彼女に幻滅するどころか、格好良さに惚れていた。
……ああ、これがいわゆる“壁ドン”効果か。って、何で僕がされているんだろう。
情けない。次は彼女にしてあげたいと思いつつ、まずは先に風邪を治そう。
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