いいお嫁さん、やめてもいい?
「……ほんとすごいな、おまえ。言わなくても俺の欲しいもんが分かるんだな」
すこしも腕の力を弱めないまま、法資はまるで甘えることが後ろめたいことであるかのように、すこし自虐的に言いながら笑う。わたしも無自覚だった飢えを温もりで癒してもらいながら、あえて自信満々に聞こえるように言ってみた。
「だってあなたの奥さんですから」
法資はわたしの顔を眩しげに見た後。
「充電、ありがとな」
すこし照れたように言う。
「こんなんで足りた?」
「もう1、2ヵ月、放置されっ放しでもやってけそうなくらい」
「………そんな久し振りだったっけ、ふたりで話すの」
申し訳なさを感じつつ聞いてみると、法資はすぐに「いいんだよ」と返してくる。
「親父のためにいろいろしてくれてたんだし、泰海だっておまえのおかげですくすく育ってるんだから。あんまこれ以上頑張りすぎなくたっていい。……行って来るな」
そういうと、法資はすこしだけ名残惜しそうに腕を解いて玄関のドアを押し開いた。あくまでも自分のことは二の次でいようとする気遣いが、有難くも歯痒い。
「……たまには我が儘も言ってくださいね」
思わず訴えていた。
「職場でも家庭でも耐えてばかりじゃ疲れちゃうし。わたしはあなたの家族なんだから」
わたしにも支えさせて欲しいと言外に込めていうと、法資は照れたように笑って出て行った。
初めてづくしの赤ちゃんのお世話があるとはいえ、反省の苦味を噛み締める。
------あのひとのことはわたしがちゃんと甘やかしてあげないと。
そのわたしよりも大きくて、でもときどきわたしの前でだけ頼りなくなる背中にそんなこと思いつつ彼を見送った。
<end>
