いいお嫁さん、やめてもいい?

「……ごめんな」


法資は耳元で申し訳なさそうに言う。


「なにが?」
「不満だったわけじゃない。泰菜は十分、いろいろやってくれてるのに。準備の邪魔して悪い」


-------わたしの方こそ、気付けなくてごめんね。


「全然してないじゃない。べつに邪魔したってわたしそんなことで怒らないのに」


-------わたしは法資がわたし以上に『平気な人』じゃないって知ってたのに。


気付けなくてごめんと、胸の中で繰り返す。




『仕事の鬼』なんていわれている外で見せている顔と違って、素顔の法資は弱さのある人だ。

大好きだったお母さんを早くに亡くし、幼少時代寂しさをずっと持て余していた経験に起因するのか、法資は人一倍孤独に弱くて、人一倍家庭の温かさを恋しく思っている。なのにわたしや息子の泰海にはたっぷり愛情を注いでも、自分の寂しさは限界まで堪えようとするところがあった。


ほんとうは職場での多忙さや重圧でささくれ立った心を家庭で癒したいと思ってるのに、子育てや寝不足でいっぱいいっぱいになってるわたしを気遣って、ひとりでその身に溜めた不満や疲労をやり過ごそうとする。人付き合いは上手いくせに、このひとはいちばんに甘えるべき相手にほど遠慮をしてしまう。

小さい頃からよく知っている幼馴染でも、わたしはずっと法資のそんな不器用さを知らずにいた。結婚して初めて知ることが出来た、わたしだけが知る彼の顔。


わたしだけが見られる彼の弱さを、たった3分だけでも今受け止めたくて抱き返す。

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