本当は怖い愛とロマンス
毎日と言っていいほど届く俺の名前宛の何通かのファンレターを、俺に毎朝欠かさず渡すのが、中田の1日の最初の恒例業務だった。

手紙を束ねていたゴムを外すと、俺は、何通もの手紙を一枚づつ、中身を開けて、手紙の内容を確認していく。

「それにしても、本木さんって、解らない人ですよね。トップミュージシャンになっても、毎日何通もくるファンからの手紙、一枚も漏らさずに、全部、目通すなんて。」

中田は関心した様子で、俺の背後から話しかけてきた。

「当たり前だろ。音楽ってのはな、オナニーベーションじゃ意味ないんだよ。聞いてくれる人が居て、初めて、音楽は完成するんだよ。一年やってようが、五年やってようが、周りの人間や支えてくれてる人に感謝する気持ちは、一緒に決まってるだろうが。お前は、俺のマネージャー五年もやってて、まだ、そんな事もわかんないのか!」

俺は、振り返り、真剣な顔で、中田に、そう吐き捨てた。

すると、中田は太々しい顔で「すいません…」と口を尖らせて、謝っていた。

中田の様子に俺は、大きなため息をつきながら、一番最後の手紙を手に取る。
裏を向けると、「原田渚」と名前が書いてある。

俺は、その名前を見た時、夢じゃないかと、何度も目を疑った。
今までの中田への強気な態度など一気に吹っ飛んでいた。

「本木さん?どうかしたんですか?」

手紙を掴んだまま、何も言わなくなった俺を中田が心配して、声をかけてきた。

「いや、なんでもない…」

俺は、その手紙を読まずに、慌てて、他の手紙と一緒に重ねて、テーブルの端に置いた。
あまりの驚きに手まで震えだす始末だった。
そして、平然を装おう為に、昨日テーブルの上に置きっ放しにいていたタバコの箱からを震える手で、一本タバコをとりだすと、口に咥えて、ライターに火をつけた。

そんなはずない。

なんで渚から手紙なんか…

彼女は、12年前に死んだはずだ。



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