本当は怖い愛とロマンス
西岡の車が病院に着くと、病院の看護師に病室を案内された。
渚はなぜか突然運びこまれた軽傷だった患者にも関わらず、最上階の特別室に入院していた。
部屋の前にはスーツを着たガードマンのような男が2人立っていた。
ガードマンに西岡が耳打ちをすると、部屋に通された。
VIPや芸能人しか入院できないようなだだ広い部屋を中に入って確認すると、ますます俺は妙な違和感を感じた。
西岡は落ち着かない俺を横目に言った。
「今、君が考えている事は、なぜ彼女がこんな特別室に入院できるかって事だろ?」
窓のそばに置いてある広いソファに腰掛けた西岡は笑いながら俺に言った。
「この状況を見て、本木君は薄々感づいているかもしれないが、彼女はただ者じゃない。君に心配はないと言ったのは見ての通りだよ。彼女の命はいつだってお金で買えるって事さ。」
俺は彼女自身を名前や見た目、出会いからの素振りや状況で勝手に自分の理想で作りあげていた。
俺は、彼女が本当に渚という名前なのか、どういう人間なのかさえ何一つ知らない。
そう思うと、以前谷垣が俺に言った一言も半ば検討違いではなかったのかもしれない。

相手の全てを受け入れ、どんな状況でも変わらず愛情を注げるか。

自分が守ってやらなければって気持ちだけが先走って本当の彼女を知ろうともしなかった。

「西岡さん、彼女の事知ってるなら全部教えてくれませんか?」

俺の真剣な目を見て、眠る渚を見た西岡は一つ溜息をついた。

「やっと夢から覚めて、現実を見る準備が出来たって訳か?いいよ。俺の知ってる事は教えてあげるよ。ただし、それを聞いて、どうするかは君の自由だ。」

その後、西岡の話が終わっても夜が明けるまでずっと俺は病室のソファに座りタバコを吸っていた。

太陽が昇り朝焼けに照らされて、俺は長い長い夢から覚めたのだ。

冷めた目で渚の眠る顔を確認した俺は病室を出た。
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