本当は怖い愛とロマンス
そこに立っていたのは、孝之と奈緒だった。
満面の笑みで、俺の姿を確認した途端、クラッカーの音が鳴り響く。
俺はびっくりして、思わず一瞬何が起きたかわからず動きが止まる。

「けいちゃん、誕生日おめでとう!びっくりした?」

「だから言ったんだよ!佳祐にはちゃんと電話してから家に来た方がいいって!」

「それじゃ、サプライズの意味がないじゃない!」

俺の目の前で孝之と奈緒が言い合いをしていた。
寝ぼけて夢を見ているのか?
俺は頬をつねる。
そんな放心状態の俺を見て、孝之が紙袋を目の前に突き出した。

「佳祐!何ボーッとしてんだよ!寒いしケーキと酒買ってきたんだから、中入れてくれよ!」

「あ、ごめん。」

訳がわからないまま2人を玄関先からリビングに招き入れた。
前と変わらない2人といつもと変わらない3人の空間がそこにはあった。
俺を大切にしてくれた2人がいて、そんな2人の気持ちを傷つけた事実がなかったみたいな時間が流れていく。
台所では、孝之が持参したシェイカーで俺と奈緒の為にカクテルを作っている。
俺の目の前では、口にクリームをつけながら笑顔でケーキを頬張る奈緒の姿。
ケーキにはチョコレートのプレートに書かれた俺の名前と誕生日おめでとうの文字。
違和感しかない空間にしびれを切らした俺は初めて意を消して言葉を発した。

「何の冗談なんだよ?何もなかったみたいに、こんな事しておかしいだろ。俺はお前達2人にこんな事してもらう資格なんてないだろ?」

2人の視線と静寂が俺に突き刺さる。

初めにその静寂を破ったのは奈緒だった。

「私はずっとけいちゃんが好きで、私は好きな人が幸せで笑ってるならそれでいいって思ったの。嘘ついたり、困らせたり、傷つけたり、好きな人に1番になりたいってあの時は思った。でも、1番になるのは私には荷が重すぎたのかも。でもあれから考えてた。きっと、これからもけいちゃんが1人で隠れて泣いてたら、私が側にいてあげなきゃって思う。だから今日も来たの。」

奈緒の笑顔が胸に突き刺さる。

孝之は奈緒の言葉にシェイカーを置くと奈緒に続けて言った。

「お前に傷つけられた分、俺も同じ様にお前を傷つけて追い詰めた。ずっとお前を見守って助ける事が、俺がお前の側にいる意味だって思ったんだ。俺は、お前の1番にはなれなくても、今までみたいに1番の親友にはなれるかなって。お前が苦しい時、側にいる事なら男の俺でも出来るだろ?」

孝之は苦笑いしながら言った。

二人は、俺よりも先に苦しみを乗り越えた。
きっと、それを笑い話に出来るのはその証だ。
どんな事があろうと相手を「好き」だという自信と何があっても揺るがない愛情を二人から俺は感じた。
最後に口に運んだ誕生日ケーキが少ししょっぱく感じたのはなぜだろう
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