本当は怖い愛とロマンス
その後、俺は、すぐに担当の看護師に電話をかけ、無理を承知で恵里奈を今から自分の自宅に連れて治療をさせたいと懇願した。
一刻も早く、ここから恵里奈を救い出したいと思ったからだ。
担当医に今の状態では無理だと首を何度も横に振られたが、めげずに何度もお願いし、なんとか自宅に連れて帰る許可を得た。
身内の承諾がいると言われたが、唯一の身内の谷垣はソファに座り、下を向いたまま、生気を失ったかのように何も喋らず抜け殻の状態だった。
「谷垣さん、俺、恵里奈を連れて帰ります。俺に預けてもらっても良いですか?」

谷垣は俺の問いかけに下を向き、携帯を忙しそうに触っているだけで、何も返答しなかった。
恵里奈が病院を出る準備ができたと部屋に看護師が来て呼ばれ、そのまま黙って部屋を出て行こうとした時だった。

「恵里奈を頼んだ…さっきハイヤーを、一応一台事務所の人間に手配させて下に呼んでおいたから。くれぐれもマスコミには気をつけろよ…」

そう谷垣が最後にポツリと力なく呟いた後、誰もいなくなった病室で禁煙にも関わらず、窓を開けて思い詰めた表情でタバコに火をつけた。

谷垣がその言葉を発した瞬間、何を思っていたんだろう。

俺は何も言わずにその姿を確認した後、病室をでていった。

俺には、投げやりからの言葉ではなく、谷垣の姿が自分を悔いているように見えた。

そして、 初めて、恵里奈を自分の意思で手放し自由にする事が父親としての本当の愛情への第一歩だと言う事に気付いたのかもしれない。

呼吸機が繋がったままの恵里奈を病院の下についていた車に乗せると、運転席には顔を何度か見た事がある事務所のスタッフが乗っていた。

「自宅前まで車回してくれ。」

俺がそう言うと、目的地が決まった車は走り出した。

自宅前を通ると、玄関前には多くのマスコミがネタを聞きつけ殺到していて、とてもじゃないが、玄関から自宅に入れる状態ではなかった。

運転席の事務所のスタッフがバックミラー越しに俺を見ると、報道陣のあまりの数に手も足も出ないのか、俺に助けを求めるように言った。
「本木さん、どうします?これじゃ車も自宅前につけれませんよ。」

自宅前まで後1キロと言うところで車は停車してしまった。
その状況を見た俺は舌打ちをしてから、サイドドアに手をかけ、自宅のスペアーキーを運転席のスタッフに放り投げた。

「俺はここで降りて、報道陣の中を通って自宅に入る。俺が報道陣を引き付けてるうちに、お前は裏口に車をつけてそこから自宅に入って、その子を降ろせ。」

「本木さん、そんな事したら囲まれますよ。ただでさえ、今、警察も絡んでてややこしい状況なのに…ヤバイですよ。この子を病院に一旦戻して、本木さんが裏口から帰った方が…」

「馬鹿野郎。そんなくだらない事なんかより今はその子を守ってやるのが優先だ!」

俺はそう言い残しサイドドアを開けて、外に出て行った。










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