口の悪い、彼は。
 

「他の奴らは外回りに行ってるし、対応できる人間がいねぇんだ。俺も14時から会議で戻れるかわからねぇし」

「……なるほど、です、けど……対応って何をしていたらいいんですか?」

「茶でも出して、最新のサンプル品を見てもらっておいたらいい。この前、見本品が数点上がってきていただろう。30分くらいならそれで十分潰せる」

「……」

「おい、高橋、そんなに心配すんな。別に営業しろとは頼んでない」

「!……そうですよね。すみません」


不安が勝ってしまって、つい返事をするのを忘れてしまっていたら、部長にそんな言葉を掛けられた。

私の不安が部長にも伝わってしまっているのだろう。


「それに新製品の勉強はしているだろう」

「……え?」

「バレてないと思ってたのか?こそこそしてたつもりかもしれないけど、そのくらい見てればわかる」

「!」


最新のサンプルが上がってくると、私は毎回そのサンプルについて勉強するようにしている。

私が営業するわけではないけど自社製品のことはしっかり知っておきたいという気持ちと、何よりもどんな時計が作られて世の中に出ていくのかを知るのが楽しいからだ。

企画には同期がいるからサンプルが上がるたびにメールで資料をもらう。

それを使って業務に支障のないように残業時間に勉強していたのに、いつの間にバレていたのだろうか。

 
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