口の悪い、彼は。
 

「“ツンツン部長”についてのおもしろいこと、教えてあげる」

「へ?」

「ああ見えてね、ちゃんといたのよ?」

「……え?」

「すごく大切にしていた彼女」

「っ!」


美都さんと付き合っていたわけではないことがわかって安心していたのに、まさか元カノの存在を出されるなんて思わなかった私は、再び息をのんでしまった。

千尋にずっと彼女がいなかったと思っていたわけではない。

何だかんだ言われても、あんなに魅惑的な男を周りの女が放っておくわけはないのだ。

きっと、千尋が付き合ったことのある人数はひとりふたりではないだろう。

そのことはちゃんとわかっているつもりだし、今更ほじくり返すつもりもないけど……やっぱりその存在がいたと直接突きつけられるのはキツイ。

大学生の頃からの仲なら、きっと当時付き合っていた人のことも美都さんはよく知っているだろう。

だからこそ、その口から出てきた「すごく大切にしていた彼女」という言葉は、私の心臓にぐさりと突き刺さるようなものだった。


「千尋って普段はあんなにツンツンしてるでしょ?だから到底信じられないんだけど、千尋って彼女には本当に優しくしてたみたいで。何て言うのかなー。あ、“溺愛”ってやつ?さすがに彼女に優しくしてる姿は表では見せなかったけど、彼女の話を少し聞いてみたら、こっちが照れちゃうくらいだったみたいよ?あんな男でも意外な一面があるってことよね」

「……」

「千尋って言いたいことは言うタイプだったけど、その子を大切にしてる姿を見てた周りの人間は、“真野もただの男なんだなー”なんて言ってて。その子もすごくいい子で、ふたりのことを憧れてる人はたくさんいたし、周りはみんな、このままふたりは結婚までいくんだろうなって思ってたの」


……千尋が優しくしてた?

大切にしてた?

美都さんから出てくる言葉は私には全く想像もつかないものばかりで、まるで全く違う人物の話を聞いているように思えてしまう。

本当に千尋の話をしているのだろうか、と疑ってしまうくらいに。

 
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