口の悪い、彼は。
 

「ってことで、この辺で千尋の話は終わり!ツンツン部長もただの普通の男だってことわかったでしょ?これからは怖がる必要なんてないわよ~」

「あ、ははっ」

「さっ、じゃあ次は小春ちゃんが綺麗になった理由聞きたいなっ」

「へっ?」

「本当に会わない間にすっかり、“かわいい”の上に“綺麗”っていう武器も身につけちゃって、いい女になってるんだもん。驚いちゃった。いい人、いるんじゃない?第二のお姉さんに教えなさい?」

「いや、あの……っ」


突然私の男関係についてずいずいと迫ってくる美都さんに、私は何も言えずに逃げることしかできない。

比奈子さんとの話を聞いた以上、なおさら千尋とのことを言うわけにはいかなくなったんだから。

……絶対に、私が千尋と付き合っていることは知られちゃいけないこと。

私はツキン、ツキンと突き刺すような胸の痛みをぐっとこらえ、にこっと笑う。


「今いないんですよー。残念ながらっ」

「え、ほんとにー?」


美都さんからの疑惑の目に私は手を上下に振って、けらけらと笑い飛ばす。


「寂しいことに、本当なんですよね~。あははっ」

「周りの男はバカねぇ~!こんなにかわいい子を放っておくなんて!」

「かわいいなんてそんなことないですって!あっ、それよりも、美都さんと社長とのラブラブ話を聞かせてくださいよー!ふたりの話が聞きたいです!さっきから馴れ初めとかいろいろ聞きたくてうずうずしちゃって!」


私は話の流れが私や千尋に向かないように、必死でしゃべり続ける。

とにかく思い付くことを質問して、美都さんの話を引き出した。

……でも、正直、私はちゃんと美都さんに笑顔を向けることができていたのか、ちゃんと話ができていたのか、よく覚えていない。

 
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