口の悪い、彼は。
「……千尋」
「あ?」
「……好きだよ、千尋」
「……あっそ。ほら、帰るぞ」
「……」
ふいっと私から目をそらし千尋は歩き始めるけど、私は動くことができないでいた。
その冷たい言葉の裏には何が隠れてるの?
……私の「好き」という言葉を嬉しいと思ってくれてる?
……千尋も私のことを好きだと思ってくれてる?
……比奈子さん以上に、私のことを好きだと思ってくれてる?
……比奈子さんの話を持ち出せば、『今はお前が一番だ』って言ってくれる?
こんな風に思うのは重いのかもしれないけど、ちゃんと言葉で言ってもらえないとわからない。
一言でいいから言って欲しい。
この不安を取り去ってほしい。
気付けば、私は千尋のことを呼び止めていた。
「……待って」
「あ?何だよ」
「あのね、美都さんに聞いたの。千尋が昔……、比奈子さんと付き合ってたってこと」
「……ふぅん。つーか、お前たち知り合いだったんだな」
「うん。……比奈子さんってさ、綺麗だし、素敵な人だよね」
「は?何が言いたいんだよ、お前は」
「……千尋は何で私なんかと付き合ってくれてるの?私、比奈子さんみたいに綺麗でも何でもないのに」
少し離れた位置で私を見下ろす千尋の表情は焦った様子でも困った様子でもなく、いつものように淡々としたものだ。