口の悪い、彼は。
 

「高橋、家はどこだ」

「え?」

「……はぁ。家の場所を聞いてる。こんな時間まで残って帰れるのか?」

「あっ、ごめんなさい!ゆずが丘なので電車もまだありますし、頑張れば歩いて帰ることもできるので大丈夫です。駅近くのシトラスハウスっていうマンションに住んでるんですけど、オシャレなのに家賃が安いんですよ!偶然空きがあって入り込めてラッキーでした」

「……はぁ。」

「?……あの、部長?」


何度目かわからないため息をつかれたけど、何でため息をつかれたのかがわからなかった。

部長の意外な一面を知ることができたとは言え、やっぱりその考えを読むことはなかなか難しいらしい。

帰る準備がようやく整った私は、オフィスの扉を開け放って私を待ってくれている部長に歩み寄る。

部長は私のことをじっと見ていた。


「どうかしましたか?」

「別に」

「……?」


さっさと出ろ、という部長のジェスチャーに促され、私は首を傾げながらオフィスから廊下に出る。

部長がカードリーダーにカードキーをかざすと、ふっと廊下の電気が消えた。

その次の瞬間、ふわりといい香りがした。


「!」


今まで気付かなかったけど、部長って香水つけてたんだ。

それと一緒に微かに香る煙草のにおい。

煙草のにおいはあまり好きじゃないんだけど、部長とのコラボは似合いすぎて、この部署に配属されてからすぐにあった新歓の席ではつい部長が煙草を吸っている姿に見とれてしまっていたものだ。

……お酒の席だというのに、「調子乗んな」と言っていたり、社長に対する文句を言っていたり、帰り際店の外に出てからは酔った先輩に向かって「会社の名前に傷つけんなよ」と言った後他の先輩に「責任感持てよ」と言っていたりと、部長はやっぱりツンツンした言葉を連発していて、周りはみんな苦笑していたけど。

あれも意味のないツンツンだったわけじゃなくて、もしかしたらちゃんとした理由があったのかな?

席が離れていてところどころしか聞こえなかったから、今となっては知る由もないけど……もしかしたら、あの言葉の裏では酔った先輩のことを心配していたりしていたのかもしれない。

 
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