口の悪い、彼は。
 

「喜多村さんおかしい~!」と可笑しくてけらけらと笑っていると、突然私の頭を撫で回していた喜多村さんの手がピタッと止まった。


「?喜多村さん?」


突然動きを止めた喜多村さんを見上げると、喜多村さんはある方向を向いて強張った表情で固まっていた。

何だろうと私もその目線の向いている方向を見ると、そこにはいつの間にかすぐ近くまで来ていた千尋の姿があった。


「っ!?」

「……ぶ、部長。お疲れ様です!」

「……」


千尋は就業時間以外はめったに人のデスクに来ることはなく、私たちだけではなく、オフィスにいた数人の営業の人も話すのをやめて、心配そうにこっちを見ている雰囲気が伝わってくる。

ピリッとした空気がオフィスを包み込んだ。

千尋の表情はすごく冷たいもので、しかも無言でじっと見てくるから、私も喜多村さんも表情を引き締めた。

うるさくしていたことに対して怒鳴られることを私たちは覚悟したのだ。

ゆっくりと千尋の口が開く。


「小春」

「…………?」

「さっさと帰る準備をしろ。置いてくぞ」


千尋は涼しい顔をしてふいっと私から目線をそらし、オフィスから出ていく。

私は何も言えず、その後ろ姿をただ呆然と見ていた。

……それは、私だけではなく、そこにいる誰もがポカーンとしていたと思う。

一体、今、何が起こったの?

千尋の口から「小春」って聞こえた気がするんだけど……気のせい、かな……。

 
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