口の悪い、彼は。
「ま、まさか……部長と高橋との子ども!?」
「……」
「……はいっ!?」
喜多村さんが突拍子もないことを言い出して、私はものすごく驚いてしまう。
視界の端に映る千尋も完全な呆れ顔だ。
っていうか、平日は休まずに会社に行ってるのに、何でそんな言葉が出てくるの!?
「喜多村さんっ、何変なこと言ってるんですかっ!?」
「え、だって」
「その前に結婚すら……っ、し、してないですから!」
「あ、そうだった。つい」
「~~っ」
喜多村さんはアハハ!と笑い飛ばすけど、私はそれどころじゃなかった。
慌てていたとは言え、思わず“結婚”という言葉を出してしまったことに気付いて、戸惑ってしまったからだ。
千尋に変な誤解されてたらどうしよう……!
『こいつ、結婚したいと思ってんのか?重い』なんて思われてたりして……!
『俺は結婚したくない。お前は結婚したい。価値観が合わないから別れるしかないな』なんて言われちゃったらすごく困る……!
確かに結婚に対して憧れの気持ちはあるけど……私は今のままでも十分なのだ。
ただ千尋のそばにいられればいい。
お願い!変な誤解はしないで!
そう訴えたくなった瞬間、背中をぽんっと叩かれ、私はびくぅ!と肩を震わせた。
「ひゃわ!」
「どうしたの?小春」
「!お、お姉ちゃん!」
声に振り向くと、そこには不思議そうな表情をしたお姉ちゃんがいた。
戸惑いを自分ひとりでは抱えきれそうになくて、お姉ちゃんにすがり付きたい気持ちになったけど、千尋と喜多村さんがいる手前、それはできそうにない。
落ち着けー!私!!
何とかこの場は誤魔化さなきゃ!
「あっ、あのね!……そう!晴日ちゃんがかわいくて仕方なくて、湧き上がる気持ちをぐっと抑えてたの!」
「何それ?ふふっ、変な小春。晴日、泣いてなかった?」
「あっ、うん!ちょっとだけ泣いちゃったんだけど、ほら!今はご機嫌だから大丈夫!ねっ!」
「ほんと?それなら良かった。ありがとう」
そう言ってお姉ちゃんは喜多村さんと晴日ちゃんの元に向かう。
晴日ちゃんはお姉ちゃんに満面の笑顔を見せ、抱っこしてほしいと手を伸ばしておねだりをし始めた。
その晴日ちゃんの様子に、喜多村さんが寂しそうな表情になったことは言うまでもない。