それが愛ならかまわない

 恋人同士の休日の朝の光景、だと思えば別に珍しい事じゃない。ホテルでお泊りだって経験がないわけじゃない。
 問題なのは、目の前の人物が恋人でもなんでもない事。
 ただ昨夜は確かにアルコールが入っていたとは言え、酔っ払ってはいなかった。だから何がどうしてこうなったのかは嫌になるくらいはっきり覚えている。いっそ記憶がなくなっていた方がマシだっただろうか。


「……やめた」


 現状を把握した所で私はそれ以上の思考を放棄した。
 今更考えても、こうなったものは仕方がない。それよりこの顔を寄せ合った状態のままで相手が目覚めてしまうとかなり気不味いはずだ。


 枕元に投げ出してあった男物の腕時計で時刻を見ると、朝の八時過ぎだった。さすがにまだチェックアウトの刻限じゃないだろう。
 目の前の相手を起こさないようにそうっと腰を捕らえた腕を外してベッドから降りた。


 脱いだ衣服や下着は畳んでソファの背に掛けてあった。昨夜、脱いだ後でそこに置いたのだ。
 それだけでもう私達が冷静だった事が分かる。酔った勢いで雪崩れ込んだ情事じゃない。

< 3 / 290 >

この作品をシェア

pagetop