それが愛ならかまわない

 ニューヨークのアパートがコンセプトだというデザイナーズホテルは洒落た内装なのはいいけれどあまり広くはなく、ベッドのすぐ横に磨りガラスの扉で仕切られたバスルームがある。音で目が覚めてしまうかもしれないし、扉がガラスでうっすら中の様子が透けてしまうというのも気になった。
 それでもシャワーも浴びずに彼が起きるのを待っているなんて真っ平御免だ。
 中へ入って少し熱めに温度設定してコックをひねると、シャワーヘッドから勢い良く水が吹き出した。次第に温まってきたお湯を全身に浴びると、その熱で身体に残った倦怠感が押し出されて行く。


「どうしよう、これ」


 呟きはシャワーの水音にかき消された。
 けれどどうにも出来ない事くらい、自分が一番よく分かってる。後悔したって今更遅い。


 シャワーを浴びたばかりの身体に昨日の衣服を身につけたくなくて、浴室に置いてあったタオル地のバスローブを羽織りバスルームの外へ出ると、目が覚めたらしい男が裸のまま上体を起こしてベッドに座っていた。
 バスルームとベッドの距離が近過ぎるので一瞬ぎょっとする。まあ結構な音が響いていたはずなので起きている事は覚悟していたし、その為に中でたっぷり時間も使ったけれど。


「おはよう」


 先手必勝とばかりに自分から声をかけた。
 取り乱している所なんて見せられない。なるべく平静を装って動揺を悟られないように。

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