それが愛ならかまわない
そう、覚悟なら決まってる。ここで逃げたりなんかしない。
口を開いた事で硬直の解けた私は、椎名をベッドに押し倒した。彼の首からネクタイを抜いてそばにあった椅子の背にかけ、シャツのボタンを外す。自分から相手を脱がすなんてのも初めての経験だった。
いつの間にか椎名は眼鏡を外していた。睫毛が落とす影が濃くて、思った以上に長い事に気づく。切れ長のその眼に何だか妙な色気を感じてしまって急に鼓動が早くなる。
「……手、震えてるけど」
「気のせいでしょ」
本当に震えているとすればこれは武者震いだ。
けれどそのせいでボタンを外しあぐねている私を見かねたのか、途中から椎名は身体を起こして自分でボタンを外し始めた。上半身裸になった所で、今度は私を脱がしにかかる。私を落ち着かせる時間稼ぎの意味もあったのか、脱いだ衣服は皺にならないように椅子やテーブルの上へ。
これまで一応恋人以外とベッドを共にしたことはなかった。だから今日の昼まで名前も知らなかった相手とこんな事をしているのは何だか不思議な気分だ。数週間前に恋人と別れたばかりだというのに、その点については困った事に何の罪悪感も感じない。
「篠塚」
椎名の声が私の名前を呼んで、顔を上げた瞬間に唇に柔らかな感触が降ってくる。
最初は軽く触れるだけ。緊張をほぐそうとしているのか、徐々にお互いの唇を喰むように深くなる。