それが愛ならかまわない

 このお昼の件がなければ、私達は今頃こんな所にはいなかったんじゃないだろうか。元々椎名だって面倒臭そうにこそしていたけれど、あえて人に言ってやろうなんて雰囲気はなかった。
 待ち合わせの後、食事をしながら謝ったけれどしっかりお酒が入った後でちくりと椎名に嫌味を言われて。そこでカチンと来た私は可愛くない科白を返してしまって。後はもう再びの売り言葉に買い言葉。その時点で辛うじて残っていた敬称が吹っ飛んだ。
 散々刺のある応酬をした後で「いい加減にしろよ。なんでこんな事言う奴に一食奢られたくらいで義理立てて黙ってなきゃいけないんだ……」という心底呆れたような椎名に対して、お酒の勢いを借りた私は彼のネクタイをひっ掴んで「じゃあ身体で払うからホテル取ってよ」なんて返してしまったんだからもうどうしようもない。
 剥がれかけていた仮面が完全に剥がれ、意地を張り続けた挙句の果てに本当にここまで辿り着いてしまった。自分から男をホテルに誘ったのなんか初めてだ。でもチェックインしてしまった以上もう引き返せない。ここで回れ右なんてしたら格好悪過ぎる。


「こちらのお部屋になります。どうぞ」


 カードキーでドアが開けられる。
 真っ先に飛び込んで来るのは真っ白なシーツのかかったダブルベッド。
 スタッフが何か説明していたけれど、私の頭にはちっとも入って来なかった。彼が出て行くまで身じろぎ一つしなかったと思う。


「後悔してるんだったらやめとけば」


 私の葛藤に気づいているのか、脱いだジャケットをハンガーにかけながら妙に冷静に椎名が言う。


「誘ったのは私なんだから、今更そんな事言わない!」

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