風が、吹いた

群青色のマフラーを巻いて、黒い手袋をする。



鍵をかけて、階段を下りた。



椎名先輩と話す時間は、嬉しい気持ちと、苦しい気持ちが重なって、いたたまれない。



それでも、足は屋上へと向かってしまう。



冴えない気持ちを吐き出すように溜め息をついた。



自転車のかごに鞄を入れて、走らせる。



1ヶ月前に感じたものとは、桁違いの寒さが身体中に伝わってくる。




「寒…」




ひとつだけ、朝のこの時間に、増えた日課があった。


私が森に近い住宅地前の信号に差し掛かる頃ー




「おはよ、千晶」




椎名先輩は大体この時間に家から出てくるようになった。
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