風が、吹いた


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薬品の、匂いがする。



どこかにぶつけたらしく、頭がずきずきと痛んだ。



顔をしかめながら、うっすらと目を開けると。



「目、覚めた?」




養護教諭の三城浩子が私を覗き込んでいた。



どうやら、ここは保健室らしい。




「あ、私…」




急に意識がはっきりして、先ほどの記憶が甦った。




「寝不足と、風邪ね。お家の人、迎えにこれるかしら?」





「いや…誰も居ません。」



三城の問いかけに、しばらく考えたフリをしてから、答える。




「あら、そう。困ったわね」




彼女の手の平が、私の額にくっつけられー



「まだ、高いのに」




三城は、どうしようかと思案顔で息を吐いた。



そこへ、電話の音が鳴り響く。




「ちょっと出てくるね」




そう言うと、シャッとカーテンを閉める。




取り残された私は、三城先生が、電話の相手に応対する声を遠くに聞きながら、再び目を閉じた。
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