風が、吹いた
白いカップが、ガシャンと音をたてて、割れた。
「大丈夫?」
椎名先輩が、すぐに私の手を掴む。
だが。
赤面することをおさえられず、私はその手を払い退けてしまう。
彼が目を瞠ったのがわかった。
「千晶、大丈夫?ここはやっておくから、ちょっと奥へいって冷やしておいで。」
佐伯さんが気づいてやってくる。
幸い、客たちは楽しそうに話していて、こちらの出来事には気づいていないようだ。
「…はい」
椎名先輩と目を合わすことなく俯いたまま、私は逃げるように、休憩室のキッチンへと急いだ。
「はぁ…」
台所の蛇口から流れる水で手を冷やしながら、思わず溜息を吐いた。
これが溜息を吐かずにやっていられようか。
胸がざわざわする。
さっき知った情報で、想いは簡単に溢れてくる。
折角、押し込めた想いが。
人を好きになるってこういうことなんだろうか。
押し殺しても押し殺しても、止めることができないんだろうか。
あの日、朦朧とした意識の中で、私は何を願った?
椎名先輩と何があったの?
どうして先輩は何も言わないの?
もしかして、私何か言ってしまった?