風が、吹いた
今日は、森も、お気に入りの家も見る余裕なく、一目散に佐伯さんの所に向かった。
カランカラン
荒く息をしながら、コーヒーの香りをいっぱいに吸い込み。
「こんにちは」
といえば、佐伯さんが、
「おかえり。学校どうだった?」
と、言う。
いつも通りの声と言葉に、落ち着きを取り戻すと、私もいつも通り、カウンターの裏にある戸棚に鞄を仕舞って、壁に掛けてある黒いポケット付エプロンを体に巻いた。
腰でリボン結びをしながら答える。
「普通でした。いつもと変わらず」
佐伯さんが笑う。
「それにしては、今日はかなり急いできたように見えるけど?まだ始業時間には早いし、それに制服のままだけど。」
「えっ⁉︎」
言われて咄嗟に時計を見ると、時刻は16時半だった。つまり、1時間も早く来てしまったことになる。
ーあぁ……
何やってるんだ、私。動揺しすぎ。
恥ずかしさのあまり、唇を噛みながら、はー、と本日何度目かの溜め息を吐いた。