風が、吹いた

「すみません。着替えて出直してきます」




肩をがっくり落として、エプロンを外そうとする私を、佐伯さんは面白そうに見ている。



「いいよ、今日だけ特別ね。」




「え…良いんですか?」




「いいよ。けど、今は、人がちょうど切れたところで、この時間は少しだけ、暇なんだよねぇ。でもいつお客さんがくるかわからないし…」




佐伯さんの言葉の真意を掴みかねて、私が首を傾げていると、きらっと佐伯さんの目が、光った…気がした。




「実は、新しくバイトを雇おうと思ってるんだ。」




佐伯さんは、楽しそうに言う。




「で、今日もうすぐここに来てくれるはずなんだけど、面接をしなくちゃならない。一応採用とは決めてあるんだけど、僕は店の方見てないといけないし…そうだ、千晶代わりに、面接してくれる?」




そう言って、休憩室、もとい面接会場へと入るよう促す。



してやられた、気がする。


バイトの面接をバイトにやらせるなんて。
< 20 / 599 >

この作品をシェア

pagetop