風が、吹いた





「もともとね、ここは借家じゃなかったんだよ」




そう言うと、佐伯さんは椅子の背もたれに背中を預けて、困ったように微笑んだ。




「遠方から来る様なお客さんのための家っていうのかな。元は、確かに僕の家だったんだけど。僕はカフェに家があるからね。部屋のメンテナンスとかも外部に頼んじゃってるんだ。」




記憶を手繰り寄せるかのように、佐伯さんが遠くを見つめるような目をする。




「それで、ちょうど…半年くらい前のことだったかなぁ」



右に組んでいた足を、反対に組み替えた。
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