風が、吹いた
 


なぜかちりちりと胸が痛くて。




美味しかったタルトが、喉につかえた。




浅尾は、優しい。




大事にしてくれる。




きっと、これから先も、ずっと一緒に居てくれるだろう。




その優しさを、私は受け入れようと決めたんだ。




傷つけてはいけない。




彼を、これ以上、傷つけたくない。




後戻りは、できない。





夕飯もご馳走になった帰り道、手を繋がれた。




少しの戸惑いが、一瞬体を固くさせたけれど、




それでも、自分以外の人の体温は、心地良かった。




自分の中の、まだ消えない人と、その手を比べてしまいそうになって、気づかれないように首を振る。




今日も、月が綺麗に光っている。




私の歩く道も、きっと照らしてくれるだろう。

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