風が、吹いた

家まで送ってもらってから、また次に会う約束をした。



「あの、さ。倉本は、雑誌とか、読む?」




別れ際に、浅尾が唐突に訊ねる。




「へ?」




予想していないことだったので、間抜けな声がでてしまう。




「雑誌?あんまり読まないなぁ。家にテレビもないし。私って芸能界とか疎いんだよね」




意図がわからないまま、とりあえず答えると。



「そうだよな。実は俺もなんだよなー。仕事上ネットは使うけど、テレビ見たり、雑誌読んだりなんて暇ないもんな」




浅尾も、大したことではないように同意したので、私も深く考えるのを止めた。




「浅尾も仕事、忙しそうだね。今日も行ってきた帰りだったんでしょ。早く休んだ方がいいよ。」




それ、とパソコンを指すと頷く。




「そうだな。またな。」






私が中に入るまで、浅尾は見ていてくれて、部屋の窓から覗くと、駅に向かう後ろ姿が見えた。




浅尾の事を好きになれれば、それで全てきっと上手くいく。



そんな気がした。




諦めたことは、今までも沢山あったから。




両親に置いていかれた時だって、私は我慢できたから。






同じだよね?





ただ。





貴方の時だけ、私は、




『待って』




と、言えなかったけれど。






引き留めることすら、できなかった。






それだけが、





心残りだよ。

< 387 / 599 >

この作品をシェア

pagetop