風が、吹いた

そして、あんな笑顔は、あいつが消えてから、一度も見ていない。




上辺だけの笑いや乾いた笑いは、よくする。




でも、はじけるような、花が咲いたような、あの笑顔は、もう長いこと、見ていない。





それが、取り戻せるなら―




「俺は一生友達でいてやるよ」




覚悟を決めたように、呟く。




「友達は、友達の幸せを願うもんだよな」




空に向かって、手を伸ばした。








伸ばした先に、随分と高くなった月が見える。




それは、彼にとって、欲しいのに、絶対に手の届かないものを連想させた。




浅尾の表情が、切なく歪む。








夜にしか光を放たない月は、



昼間にも確かにそこに居るのに、



どうして太陽は気づかないんだろう。








答えは、わかりきってる。




自分の光が、眩しすぎるから、だ。







月に向かって伸ばした手を返して、ぐっと握り締めた。






この手に、何が出来るだろう。








その答えも、わかりきっている。
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