風が、吹いた

いつの間にか、バイトに向かう途中で、遠回りをすることが癖になっていた。



そのこと自体に、何の意味もないことは理解していたが、どうせ、彼女は反対側に居る自分には気づかないのだからと言い聞かせてそのまま直すことをしなかった。


同じ位の時間帯にいけば、大体彼女は森の前で信号待ちしていた。



視線の先にある、小さな家。



あそこに彼女は、自分の中で、何かを見出していて。


唯一心を許しているように思えた。



いつも無表情の彼女は、もしかしたら本当は寂しがりで、誰かと一緒に居たいのに居れない、そんな心境なのかもしれない。



そう感じるようになったのは、いつからだったか。



もしも。




もしも、あの視線の先に、自分が居れたら。




たとえ、彼女が気づかなくても。




彼女の目を、自分が見つめることが出来たら。




彼女の心を許す場所が、自分の持つ空間だったとしたら。




そしたら。




この気持ちも、少しは報われるかもしれない。




それだけの繋がりでもいいから、




他には何も要らないから、



だから、せめて、そこだけでも、




君と繋がって居れたら。

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