風が、吹いた
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―12月31日。
引越し先で、業者を見送ってから、空っぽになったアパートに戻った。
「佐伯さんも、大晦日だっていうのに、差し入れくれちゃって…。」
誰も居ない部屋に、サンドイッチの入れ物と、水筒がぽつんと置かれている。
暫く店に顔を出さなかったために、少し心配したそうだ。
これからは、きっともっと会えないだろう。
お互いそれを理解している。
だからこそ、別れ際は普段通りにさよならをした。
「あったかいお茶、もらお…」
開け放たれたベランダの窓と玄関に、一直線に風が通って寒い。
赤い水筒の蓋をぱかっと開けると、ふわりと漂う香り。
「…アールグレイ…?」
てっきり、佐伯さんはコーヒーを淹れてくれたんだと思っていた。