風が、吹いた



突然ぽたりと涙が床に落ちた。




「…え、なんで…?」




ぼろぼろと後から後から零れる涙の理由(わけ)を知らない。



どうしてか、懐かしい、と思う香り。



胸がきゅっと締め付けられて、心が大きく揺さぶられる。






どこかで、誰かと…






頭が、痛い。




靄がかかっている様な、



もう少しで、何か、見えそうな。



…でも、やっぱりわからない。




小さく息を吐いて、結局口をつけることなく、蓋をした。




ガチャリ。



ショルダーバックを提げて、鍵を閉める。



大家さんに鍵を返し、駅までの道のりを歩き始めて、ふと、思い立つ。





―そうだ。あそこに寄って行こう。





家に帰りたくなくて、学校が終わった後寄り道した河川敷。



きっと芝生は枯れて、寒々しくなっているだろうけれど、思い出の場所。



よく寝転んでは、季節の風を感じていた。



あの場所だけ、見てこよう。



ポケットに手を突っ込んで、白い息を吐き出した。

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