風が、吹いた



その幻想的な美しさを、ただただ呆然と見つめ、



暫くしてから、間違った季節に咲いてしまった桜の木に近づいた。




そして、気づく。




先客が居たことを。




幹に背中を預け、腰を下ろしているその人は。




真っ黒なコートに、雪と花びらが、ぽつぽつと足跡を残しているのも全く気にならない様子で、色素の薄いその髪を、ふわりと揺らしながら、真っ直ぐに、流れる川を見つめていた。




綺麗なその横顔に、ほんの一瞬、見惚れ、どうしてだか心臓が暴れだす。





カサ




枯れた芝生を踏む時に生まれた音でー




ーしまった。




思うのと同時に、彼がこちらに振り向く。




邪魔する気はなかったのだけれど、仕方が無い。謝るしかないかと見ると、目の前の彼は固まったまま、驚いたように目を見開いている。




「…千晶」




私の知らないその人は、何故か私の名前を呼んだ。




「え…?」




次の瞬間、ざぁっと大きく風が吹いて、視界を桜と雪が遮る。




「千晶!!!」
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