風が、吹いた

「あ。」




道理で寒い筈だ。



今仕舞ったばかりの手の平を出して、空に向ける。



ひらりとその上に舞い落ちた白い欠片が、体温にすっと馴染んで消えた。




「雪…か」




そういえば、あの河川敷で、雪が降った時に、居合わせたことがあったろうか。


寒さが苦手な私は、大抵冬になると引き籠もる。



でも、確かに雪が降る中、あの場所で過ごしたことがあったような気がした。



ま、いいか。



止めた足を、再び動かす。


びゅうと吹く風が、寂しい、と言っているような気がした。






通い慣れた道のりを歩き、目的の場所に辿り着くと、予想もしていない光景に、目を見開いた。





―え?





川の傍に植えられている、桜並木。




そのうちの3本の桜が、




狂い咲いて、




花びらを散らしている。




白い雪と、淡い桃色が、お互いを守り合いながら、




ふわりひらりと。


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