君の名を呼んで 2
番外編 #2 皇の初恋
 早起きは三文の徳、なんていうけれど。
 その早起きは、俺にとんでもないものをもたらしたーー。


 日曜日の、朝7時半。
 俺はリビングのテレビをつけたまま、固まっていた。

 長いサラサラの栗色の髪。パッチリと開いた瞳と、それを縁取る長い睫毛。真っ白な肌に、ほんのり赤い唇。華奢な手足に、にっこり花が咲くような笑顔。

「……やべ」

 城ノ内皇、小学四年生。
 人生初、一目惚れを、した。


「あれー皇、そーゆーの興味無いんじゃなかった?」

 後ろから双子の兄、皇紀がテレビを覗き込んだ。色とりどりの変身ヒーローがポーズをとっているその子供向け番組は、皇紀ならば2,3年前まで熱心に観ていたが、確かに今まで俺は見向きもしてなかったはずだった。

「皇紀、これ何て読むんだ?」

 番組最後に画面下を流れるエンドロールで、彼女のものらしき名前を指差す。

『白鷺雪姫』

「しら、なんとか……ゆき、ひめ?」

 難しい漢字に二人で首をひねる。

「白雪姫!いいじゃん、白雪姫で」

 わかんねーのかよ。
 皇紀は俺が何に興味を持ったのか、どうやらちゃんと理解してくれたらしい。

「あ、さっきのコか。可愛かったね~」

 コクコクと頷いて。
 それから俺は日曜恒例の朝寝坊は返上して、毎週早起きすることにした。



「お前らもう起きたのかよ。休みは休めよな」

 その日は兄の帝が自室から降りて来て、俺と皇紀を呆れたように見た。
 どうやら水飲んで、また二度寝するつもりらしい。それでも平日よりは遅いんだけどな。
 天気予報~と呟いてチャンネルを変えようとした兄を、足蹴にしてリモコンを奪った。

「なにすんだよ、皇!」

「うっせ、馬鹿みかど!」

「ねぇ、帝兄~皇が毎週それ観てるんだけど」

 皇紀が帝に言う。
 帝はテレビの前を陣取る俺を、驚いたように見た。

「え、ちょっとおかーさん、おかーさーん!皇ちゃん変なんだけど!」

「うるさい、帝」


 それから毎週、俺は画面の向こうの白雪姫を見つめ続けて。

「皇君最近冷たい~」

 いつのまにか俺の彼女と名乗っているそいつに膨れられても、全く興味も無く。

「じゃあ別れよーぜ。ていうか俺ら付き合ってるっけ?」

「ひどい!皇君の馬鹿ぁ!」

 なんてことを繰り返していた。
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