君の名を呼んで 2
番外編 #4 記憶の中の君に
未だに残る、その記憶。



***



『オーリ、メッセージを聞いたら連絡を下さい。どうせ雪姫様のところでしょうが、SPくらいつけて下さいね』


携帯の留守電に残る秘書の声。
着信とメールも彼で埋め尽くされていて、なんだか嫌な気分になる。
ストーカーか、と言いたいが、彼はそれで給料を得ているーー(しかも結構な金額を)のだから仕方ない。

スクロールさせていく履歴に、その中で一つだけ、特別な名前を見つけて。
現金にも自分の顔が穏やかになったのがわかった。
秘書の用件は全て後回しで、彼女に電話をかける。


『桜里?』


その声に、一瞬息が止まった。


電話越しに聴く愛おしい娘の声は、彼女の母親のーーかつての妻の声にそっくりで。

「美雪……」

呟いてしまった名前に、電話の向こうで小さく漏らされた息。
呆れているのでも無く、哀れんでいるのでも無く、同じ痛みを知っている、そんなため息。


『もうすぐだね。……来る?』


何を、どこに、いつ?
そんなことは聞くまでも無い。


「もちろん。……美雪の命日ですからね」


電話の向こうで、雪姫が微笑んでいるのを感じた。



ーー白鳥桜里、それが、僕の名前。


ーー白鷺桜里、それが、俺の捨てた名前。
< 140 / 140 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:9

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

うっかり持ってきちゃいました 2

総文字数/18,464

恋愛(ラブコメ)29ページ

表紙を見る
君の名を呼んで

総文字数/151,544

恋愛(オフィスラブ)282ページ

表紙を見る
私んちの婚約者

総文字数/166,041

恋愛(ラブコメ)274ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop