君の名を呼んで 2
今すぐキスして
 何分か、何時間か。


 緊張したままの私には、時間の感覚は既に無くて。
 必死で逃れようとした腕や足は紐で擦れて真っ赤になっていた。

 男は部屋のクローゼットから、何かを取り出す。

「ね、雪姫ちゃん、これを着てね。きっと君に似合うよ」


 広げたのは真っ白なレースのロングドレス。
 繊細な光沢はときめくほど綺麗だけど、こんなマンションの一室で見ては笑い話にしかならない。


「お、お着替えですか……」

……勘弁してください。


「嬉しいなあ。ユキちゃんが僕のプリンセスになってくれるなんて」


……どうやら彼の中では私は未だにメルヘンでキュートな魔女っ子らしい。

 私は本気で半泣きになりながら、彼の手にしたそれを見る。
 ふざけるなと回し蹴りで退散したいところだけど、あまり刺激しない方がいいかもしれない。

 く、皇でさえ私にコスプレなんてさせたことないのに!
 いやあの人は「むしろ何も着るな」とか鬼畜発言かますけど!

 男が持っているのは、裾こそマキシ丈だけど、それほどボリュームのあるお姫様ドレスってわけでもないよう。
 ちょっとゴージャスなワンピと思え、雪姫。自分を全力で誤魔化すのよ!!ま、魔女っ子衣裳とかセーラー服とかじゃないだけマシだし。


 淡く輝くキラキラしたそれに、ウェディングドレスをーー皇との結婚式を思い出して、違う涙が込み上げそうになった。
 ぎゅっと目を閉じて、思う。


 皇はもう、私が居なくなったことに気づいたかな。要はどうなったんだろう。


 怒られても良い。
 怒鳴られても良い。


ーー今すぐ、抱きしめてほしいよ、皇。
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