フキゲン・ハートビート
だんだんに深まるくちづけを拒むことなんかできなかった。
なつかしくて、あたたかくて、優しくて。
あのころの幸せだった思い出が、頭と体のすべてを支配している。
記憶の片隅に残ったままの重みが覆いかぶさっていることに、気付いたときにはもう、大きな手は服の下を泳いでいた。
「蒼依、好きだよ」
「やめて……言わないで、お願い」
甘い言葉で騙そうとするのは、やめて。
わかっている。
大和はリホと別れる気なんか微塵もない。
きっといまだって、リホと喧嘩かなにかして、さみしくて、欲求不満で、あたしに好きだとか、気まぐれに言っているだけ。
この男はそういう病気なんだ。
わかっている。
わかっている。
ちゃんと、わかっているのに……。
――ピーンポーン……
吐息のみが生まれ、消えていくのを、ただくり返している部屋に、ふと落ちた音。
「え……?」
はじかれるように体を起こす。
とたん、我に返った。
服が乱れている。
髪も、カーペットも乱れている。
下着のホックが外れている。
「蒼依……?」
「ら……来客だから、ごめん」
どうしよう。
軽率すぎる自分が恐ろしくて、震えが止まらない。