フキゲン・ハートビート


恐る恐るドアを開けた。

いつも片手で軽々と開けているドアなのに、きょうはいやに重たい気がした。


もう外はすでに暗くなっている。


「……はい」

「蒼依~! なんで電話出えへんねん~?」


明るく高い関西弁。
耳がキンキンする。


……ああ、そうだ。

きょうは、新奈が来るんだったね。


「あ……ごめん。ちょっと、その……寝てて」

「なに寝とんねーん! ていうか聞いて、ホンマ秒殺やったねんけど……」

「あ、ちょっと待って!」


しゃべりながら入ってこようとした新奈を咄嗟に止めると、彼女は訝しげな表情を浮かべた。


「……どうしたん? 蒼依?」

「ごめん……えっと、部屋汚いからさ」

「んー? そんなんいつものことやん、どうしたんよ」


見られるわけにはいかない。

だって、大和が中にいることがバレたら、きっと新奈は火が付いたように怒る。


「……蒼依?」


でも、べつに、悪いことはしてないよね。

セックスだって未遂だ。

キスは言わなきゃバレないし……。


ふたりで飲んでいただけ。

昔のことを謝ってもらって、決別しようとしていただけ。


そうだよ。
なんにもやましいことなんかない。


「――蒼依、誰?」


やましいことはないけど、うしろから落ちてきた低い声にはさすがに青ざめた。

その様子を見て、新奈の表情がみるみるこわばっていくのがわかった。

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