フキゲン・ハートビート
「……大和先輩、帰るんやったらいまやで」
あたしを抱きしめたまま、新奈が地を這うような声で言う。
涙声なのがまた迫力があった。
大和はへらっと笑って、ごめんな、とだけ言った。
新奈がデカイ舌打ちをした。
ぎゅっと抱きしめられていて見えなかったけど、大和はたぶん、そこで帰ったと思う。
「……蒼依。ウチが洸介のこと好きって言うたとき、怒ってくれたやんか。いまなぁ、ウチはそれとおんなじ気持ちやねんで」
「……うん」
あたしは、こんなにも大切に思ってくれている、新奈の気持ちを裏切ろうとしていたんだ。
新奈だけじゃない。
あのとき、大和に対して真剣に怒ってくれた寛人くんのことも、もう少しで裏切ってしまうところだった。
「新奈、ごめん、ごめん、ありがとう……」
あたしよりも新奈のほうが小さいはずなのに、ヘンだね。
あたしのほうが抱きしめられている。
「もー。ホンマ、蒼依はクソ野郎にたぶらかされそうなるし、ウチは秒殺でふられるし、きょうは飲むしかないなぁ?」
お互いの腕がふわりと緩み、そっと距離が生まれる。
その先に、困ったように笑う新奈がいた。