フキゲン・ハートビート
「……なんで、あんたがおるん?」
低い声だった。
新奈が本気で怒ったときの声だ。
「う……わ。新奈ちゃん……かー」
「ここでなにしてるん? どのツラ下げて蒼依に会いにきとんねんよ!」
普段ニコニコしてばかりの新奈が、まるで鬼のような顔をして、怒鳴り声をあげる。
「違う、新奈、違うからっ……」
「なんにも違うくないやろ? それともなんなん、蒼依も合意の上なん!?」
あたしの両肩をつかみ、前後にぐわんぐわん揺さぶる新奈は、あたし以上に動揺しているように見えた。
その両目には涙さえ光っていた。
「ウチ、本気で大和先輩には死んでほしいと思ってるねん。もう二度と蒼依に近づかんといてって、前も言いましたよね? 蒼依にも、言うたよな?」
「ごめん、新奈、でも本当に違うんだよ、聞いて」
「なにを聞いたらええのよ!」
あたしが大和に捨てられたとき、新奈はびっくりするくらい怒って、びっくりするくらい泣いていた。
あたしのために、怒って、泣いてくれた。
うれしかった。
次は絶対に幸せな恋をするんだって、もうしょうもない男には引っかからないんだって、あのとき新奈と約束したのに。
それなのにあたしは、その張本人の男と寝そうになって。
……ああ、今世紀最大の、大バカ野郎だ。
「蒼依、ホンマにやめて。もう傷つかんとって……お願い」
いつのまにかぼろぼろ涙がこぼれていた。
新奈も泣いていた。
ふたりで抱きあって、わんわん泣いた。