フキゲン・ハートビート


「……なんで、あんたがおるん?」


低い声だった。
新奈が本気で怒ったときの声だ。


「う……わ。新奈ちゃん……かー」

「ここでなにしてるん? どのツラ下げて蒼依に会いにきとんねんよ!」


普段ニコニコしてばかりの新奈が、まるで鬼のような顔をして、怒鳴り声をあげる。


「違う、新奈、違うからっ……」

「なんにも違うくないやろ? それともなんなん、蒼依も合意の上なん!?」


あたしの両肩をつかみ、前後にぐわんぐわん揺さぶる新奈は、あたし以上に動揺しているように見えた。

その両目には涙さえ光っていた。


「ウチ、本気で大和先輩には死んでほしいと思ってるねん。もう二度と蒼依に近づかんといてって、前も言いましたよね? 蒼依にも、言うたよな?」

「ごめん、新奈、でも本当に違うんだよ、聞いて」

「なにを聞いたらええのよ!」


あたしが大和に捨てられたとき、新奈はびっくりするくらい怒って、びっくりするくらい泣いていた。

あたしのために、怒って、泣いてくれた。


うれしかった。

次は絶対に幸せな恋をするんだって、もうしょうもない男には引っかからないんだって、あのとき新奈と約束したのに。


それなのにあたしは、その張本人の男と寝そうになって。

……ああ、今世紀最大の、大バカ野郎だ。


「蒼依、ホンマにやめて。もう傷つかんとって……お願い」


いつのまにかぼろぼろ涙がこぼれていた。

新奈も泣いていた。

ふたりで抱きあって、わんわん泣いた。

< 199 / 306 >

この作品をシェア

pagetop