フキゲン・ハートビート


「うーん……もし怒るんだとしたら、怒りポイントはそこじゃないかな」


たしかにユカっぺは、テレビのなかにいるユカっぺとはぜんぜん違っていた。

ヘンなのって、ヒドイけど、まあぶっちゃけ、ヘンだった。

一方的な言いがかりつけられて、勝手に目の敵にされて、そりゃ多少はむかついた。


でもそんなことで怒らない。

生で見るユカっぺは最高にかわいかったし。


「怒るとしたら、必死で看病してるのにかたくなに『帰れ』って言われたことですかね!」


わざとらしく語尾を強めてやる。


寛人くんは大きいつり目をもっと大きくして、それからばつが悪そうにそれを細めたあと、ふいっと顔を逸らした。

ああ、やっぱりネコみたいだ。


「……メシつくらせて、走りまわらせて、自分のこと全部放っておれの看病させてんの、どうしても居心地悪かった」


もごもご、かたちのいいくちびるが動いている。


「ごめん」


そんなふうに素直に謝られてしまうと、反応に困るじゃないか。


「ううん。あたしも、ごめん。ちょっとやりすぎてた?」

「いや……うん、そんなことねーけど」


なんだよ、煮え切らないな。
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