フキゲン・ハートビート
半田寛人は、ヤなやつだけど、本当はかわいい男だ。
ちょっと言葉足らずな、不器用なやつだ。
でもそれはきっと、たぶん、あたしも同じなのだろう。
「ねえ、最近はちゃんと食べてんの?」
「まあ……そこそこ」
「もう、基本は毎日3食だよ! やっぱりあたしがいないと死ぬじゃんか」
そんなことねーし、
とか、この期に及んで言いやがるか。
「ゴハン、またつくりに行くね。嫌がってもウザがっても行くからね!」
とたん、そのきれいな顔がぐにゃっとゆがんだ。
「ウゼェ」
「食べたいもん考えといて!」
「ウルセェ」
もう。
この男はそれしか言えんのか。
でも、どうにも嫌な感じはしなかった。
それどころか、いつもの調子なのがチョットうれしくて、思わずフフッと笑ってしまうと、寛人くんがものすごく嫌そうな顔をした。
そして、それを合図みたいに、ぽこんと沈黙が落ちて。
「……あー。やっぱり9月にもなると陽が落ちるのが早いね」
紺色に染まっている東の空を眺めながらこぼしたそれは、秋の空にふわっと吸いこまれていく。
そうしたら、また、沈黙。
永遠にも、一瞬にも感じられる静寂のなか。
「……なあ」
穏やかでいて、ぴんと張りつめている空気を揺らしたのは、低い声だった。