フキゲン・ハートビート


寛人くんのウチは相変わらずモデルルームみたいにきれい。

でもそれを堪能する時間もなく、電気も点けない部屋で、あたしは大きな温もりに包まれていた。


抱きしめられている。

ほとんどなにもない、殺風景な部屋の真ん中で、立ったまま、抱きしめられている。


そんなことはわかっているけど、ぜんぜん、わからない。

体の状況に、脳がついていけていない。


「う~~っ……」


ああ、あたしがバカみたいに大泣きしているから、この男はこうしてくれているのか。


そう思ったらもっと泣けてきて、とにかくその腕にしがみついて大声を上げた。

我慢することなど1ミリも頭になかった。


一度泣いたら、涙というのは止まらないから、とても困るね。


「……ごめんなさい……っ」

「だから、なんで謝るんだよ」


ぎゅっと、あたしを包みこんでいる腕に力がこもる。


タテもヨコも決して大きくなく、どちらかといえば細っこい体をしているくせに、けっこう力強い。

ちゃんと筋肉もある。


ああ、もしかして、ドラマーだから?


「おまえはただ、あいつのこと好きになっただけだろ。悪いことしてないだろ。だからもう、謝るな。なににも、謝るな」


耳元で低い声が言う。


優しい声だった。

それでいて、強い声だった。


うれしかった。

許されている気がした。


でも、寛人くん、

でも、あたしは、本当は、とても“悪いこと”をしてしまったんだ。


「……きのう、大和がウチに来たの。そのとき……もう少しで、最後までしそうだった。キスされて、押し倒されて、そのまま……あたし、流されそうになったんだよ。

リホと別れてないこと知ってて、大和と寝ようとしたんだ……!」

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