手の届く距離
当然喜んで了承し、舞い上がっていたけれど、受験の先輩と、元々部活で手一杯の私。

時間はあまりなくて、隙間を縫ってなんとかデートを重ねた。

受験生であることを考慮して、先輩の都合を優先して呼び出しに応じる、という結構無理なスケジュールも頑張った。

先輩が卒業して新しい世界を知ると、受験生の私に遠慮してか、連絡が徐々に減り、半年もしない内に、好きな人が出来たと、振られた。

そもそも告白自体が、先輩たちの遊びで、先輩からの告白は賭けだったらしいのだ。

私がうっかりOKが出たから先輩としては、据え膳喰わぬは、の精神でそのまま付き合っていたのかもしれないと気付いたら、それまで独り相撲をしていた自分に落ち込んだ。

先輩から告白してきたから、当然気持ちがあるものだと思っていたのに、実は都合のいい女だったのだ。

受験生としては、勉強には打ち込めて、ある意味良かったが。

「一方的に好きなだけで、相手は私のことをそんなに好きだと思ってないって頭に過ぎるんですよ。だから、広瀬さんにも、ホントに私のこと好きなのかなって。好意を素直に受け止められなくて戸惑っちゃうんですよ」

好きじゃないけど、相手もいないし、好意を寄せてくれてるから取り合えず付き合っておこうかな、って感覚が寂しかった。

欲しい気持ちが、向けてられている気持ちと違う。

そんなものはよくあると頭ではわかっている。

それでも好きだから一緒にいたいって気持ちもある。

その矛盾を抱えて動けない。

唇を固く結んで晴香の反応を待つ。

笑われるか、呆れられるか、いずれにしても経験豊かに見える晴香にとっては理解しがたい恋愛以前の問題じゃないだろうか。

しかし、予想していた笑いも痛烈な言葉もなく、深い同意。

長いまつげが伏せられたまま晴香は何度も頷く。

「確かに、それだと一線越えるの足踏みしちゃうかなぁ。結構多いとは思うけどねぇ。誠だって、最初は私が押せ押せだったから、乗っかっただけだしぃ、私のほうが絶対好きの荷重は大きいと思うでしょう。でも、そうかぁ」

笑顔もなく、真剣な顔で悩んでくれる晴香さんに、変な先入観で壁を作っていたことを反省する。

「最終的にどっちも好きの感情になったならいいと思うんですよ。だけど、なんていうかライクまでも到達してなくて、『どっちでもいい枠』から出てない状況かなって」

お試し期間もありだと思うが、それがずるずる続くのは結構辛い。

「付き合ったら、好き同士になりたい思うじゃないですか。同じだけの気持ちがほしいって」

< 38 / 117 >

この作品をシェア

pagetop