エレベーター
女の人とすれ違う一。
わたしは俯きながら、軽く会釈した。



『あら、美香ちゃん?』


女の人がわたしに声をかけてきたので、わたしは顔を上げた。


知った顔だった…が、名前を思い出せない。


名前を聞くのも失礼な気がして、わたしは黙って笑顔を見せた。


『美香ちゃん、まだ若いのに…お気の毒だったわね。』


『?』


わたしは言われたことの意味がわからず、話題を変えた。


『あの、真由ちゃん見掛けませんでした?』


『真由ちゃん?』


『ええ、真由ちゃん「パパのところに行く」ってここでエレベーターを降りちゃったんです。』
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