月と星とキミと
「もうこんな時間だけど、帰らなくていいの?」
それから、どれくらい時間がたったんだろう。
自分の好きなタイミングで質問をして、質問をされたら答えを返す。
喋っている時間より沈黙の時間の方が多かったかもしれない。
「何時?」
「9時」
腕時計で時間を確認してくれる。
ここに来たのは何時だったのか。
とっくに体は冷たくなっていた。
「そうね……帰った方がいいかもしれない」
「…キミの家は近い?」
「遠くはないわ。近くもないけど」
「そうなんだ。僕も……近くはないけど遠くもないかな。
…近くまで送ろうか。この時間に女の子一人じゃ危ないから」
リュックをしょって、微笑みをわたしに向けた。
わたしを送ったら帰る時間はどんどん遅くなる。
それでもいいと彼は笑う。
キラキラ光るような笑顔。優しい瞳。
この人は、あたたかい人だ。